地方の飲食店街は生き残れるか

2022.02.08

「秋田で店を開いたのがまちがいだった」

「もう秋田で商売やることはない、てなるよね」

長引くコロナ禍。全国で最も感染者の少ない地域のひとつ、秋田県で飲食店を経営する方々の言葉だ。

かれこれ2年が過ぎようとしているコロナ禍は、特に大都市圏を中心に猛威を振るい、観光や飲食など「人が集まる」ことが本質の産業を完膚なきまでに叩きのめした。これはおそらく産業構造の転換をもたらし、コロナが落ち着くころ繁華街にはかなり違った景色が広がるのではないか、とさえ思われた。

しかし大都市圏など、数次にわたる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が適用された地域では、要請に基づく休業や時短営業に応じた店舗へ一日数万円といった協力金が支払われ、むしろコロナ前より大きな利益を得る店も出るなど、さながら「コロナ景気」ともいうべき状況が現出した。これによって、感染の拡がった地域では逆に多くの飲食店が生き残り、アフターコロナで反転攻勢を期するだけの余力と意欲を保持できているともいえる。

その一方で、秋田のように感染の比較的抑えられた地域の飲食店は、売上の減少に大きな差はなく、さりとて時短要請(=協力金)の恩恵にあずかることもなく、ひたすら窮乏に喘いでいるのである。

彼らの怒りの矛先は、地方自治体、とりわけ首長に向けられている。

緊急事態宣言にせよ、まん延防止等重点措置にせよ、①当該地域で感染が拡大している→②だから飲食店等の営業を制限して感染抑制しよう→③制限する以上は協力金を支払おう、という理屈なので、感染が拡がっていない地域では適用されない。これは当たり前の話である。しかしこの制度が想定しきれなかったのは(いやそもそも産業支援のための制度ではないのだが)、人口の少ない地域における客足の激しい落ち込みであろう。そうした地域では、感染者が出るとすぐさま「どこの誰なのか」という詮索が始まり、感染者が飲食店に頻繁に顔を出していたような日には激しいバッシングを浴びることになる。そのためごく少数の感染者数であっても、都会に比べると「外食控え」が強く出てしまうのだ。

国による持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金などの支援制度も、コロナ禍が2年を超えた今となっては飲食店の体力低下をとてもカバーし切れていない。オミクロン株による第6波では、大部分の県にまん延防止等重点措置が適用され協力金が支給されているが、それでも秋田県を含むいくつかの県では知事が同措置の要請にふみきらず、(時短要請による結果的な)救済の対象外となっている。それが冒頭の不満となっているのだ。

まん延防止等重点措置に消極的な知事たちの意見は要約するとこうだ。「今回の感染拡大は飲食店クラスターによるものではない。よって飲食店等の利用制限が主な手段である同措置の感染防止効果は小さく、同措置を要請する状況にはない。」行政マンとしては正論であろう。理屈は通っている。

しかし生業を失うかどうかの瀬戸際の、家族も養い子どもも育てているかもしれない必死の飲食店主からすると、いかにも他人事である。目の前でお店がバタバタとつぶれている状況で、そんな建前論はまずわかったから、国のお金を使って救えるのならとっとと要請してくれればいいじゃないか!という感情になるのももっともだ。

本来の制度趣旨に忠実な行政執行を行うのか、そうした建前は見ないフリをして本音の飲食店救済という実を取るか。この決心の行方がいま、地方の飲食店の存亡に大きく関わっているのは間違いないように見える。

さらに秋田県知事は、前述のような「感染予防効果論」に加えて次のようにも述べている。「まん延防止等重点措置は感染状況に応じて県内の地域ごとにしか申請できない。したがってある市では適用されて他の市では適用されないということになり、県内で大きな不公平感を生む。さらに同措置ではあくまで飲食店等そのものにしか時短要請できず、そこに卸している関連事業者などは対象外のため、救済という観点では不十分である。」そのうえで、しっかり広い範囲をカバーできるような県独自の支援策を検討する、と言った後に今回提案されたのが、「4月以降の20%割引クーポン」である。「それじゃない」感は否めない。

民間企業の赤字補填を公金で行うわけにはいかない。その原則はその通りであろう。しかし今回のコロナ禍でそうした「平時」の原理原則を堅持するという判断は正しいのか。そもそもこれは「赤字補填」なのか。むしろ豪雨災害で被害を受けた農林水産業への手厚い支援に近い性質のものなのではないか。秋田県知事がよく言う「コロナ禍でも流行っている店は満席だ」という言葉の裏には、経営努力が足りない店は苦労しても仕方ないという考え方が透けて見えるわけだが、このコロナ禍という国難ははたして努力だけで乗り切れるものなのか。

行政マンの矜持も結構だが、コロナ禍が去った後の繁華街の様子には、各地域それぞれのリーダーの政策によって大きな違いが生まれるのではないかと危惧している。アフターコロナの観光復興で重要な役割を果たす飲食店。シャッター街と化した繁華街に観光客は呼べるだろうか。